大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和45年(あ)95号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人本人の上告趣意は、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらない。

もっとも、所論にかんがみ職権をもって調査すると、第一審判決は、被告人が普通乗用車を運転し、時速約一〇キロないし一五キロメートルの速度で本件交差点に進入しようとした際、同所は交通整理が行なわれていない、左右の見通しがきかない状況にあったのであるから、徐行して左右の安全を確認して進行すべき注意義務があるのに、左右の安全確認不充分のまま漫然前記速度で進行した過失により他車と接触した旨認定判示し、右の事実は道路交通法七〇条、一一九条一項九号、二項(過失犯)に該当するとして、被告人に対し同法条を適用処断し、原判決もまた、これを是認維持しているのである。

しかしながら、道路交通法七〇条のいわゆる安全運転義務は、同法の他の各条に定められている運転者の具体的個別的義務を補充する趣旨で設けられたものであり、同法七〇条違反の罪の規定と右各条の義務違反の罪の規定との関係は、いわゆる法条競合にあたるものと解するのが相当である。したがって、右各条の義務違反の罪が成立する場合には、その行為が同時に右七〇条違反の罪の構成要件に該当しても、同条違反の罪は成立しないものと解するのが相当であるから、前記のような事実関係のもとにおいては、道路交通法四二条、一一九条一項二号の罪のみが成立し、同法七〇条違反の罪は成立しないものといわなければならない。

そうすると、本件において同法七〇条違反の罪の成立を認めた第一審判決およびこれを是認した原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があるが、同法四二条一一九条一項二号の罪の刑は、同法七〇条、一一九条一項九号、二項の罪の刑より重く、本件は被告人のみの上告にかかるものであるから、原判決を破棄しなければいちじるしく正義に反するものとは認められない。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小川信雄 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一 裁判官 岡原昌男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例